対象プログラム | 電子-分子散乱シミュレーション |
アプリケーション名 | UKRMol |
チューニング方法 | ハミルトニアン行列の構築と対角化計算の並列化 |
成果 | 負荷バランスとスケーラビリティが向上、CCPForgeへ公開 |
HECToR dCSE Teaによる電子-分子内殻領域散乱シミュレーションコードUKRMolの並列化
Michael Lysaght, Jimena Gorfinkiel, D epartment of Physical Sciences, The Open University
Paul Roberts, Numerical Algorithms Group Ltd (NAG)
HECToR CSE Team, Numerical Algorithms Group Ltd (NAG)
英国の国立学術スーパーコンピューティング設備であるHECToR 向けのNAGの計算科学技術(CSE)サポートサービスの元、Open UniversityとNAGのHPC専門家により、電子-分子散乱スイートの内殻計算プログラムの主要部分が並列化され、HECToRに移植されました。
UKRMol-inは、内殻領域における電子あるいは陽電子と分子の散乱プロセスのモデリングに利用されているプログラムコード群です。これらのコードは、時間依存シュレディンガー方程式を解くためにab initio法(第一原理量子力学)を用いており、電子散乱のR行列理論に基づきます。UKRMol-inは、相互作用を正確に記述するのに本質的な(小さな)内殻領域での問題を解きます。問題の外殻領域の解は、UKRMol-outスイートに属するプログラムにより解かれます。このプロジェクトの目的は、HECToRへ分散並列版を実装することにより、より大きなR行列計算を可能にすることです。
プロジェクトの成功について、オープン大学、物理科学部のJimena Gorfinkiel博士は次のようにコメントしています:「dCSEプロジェクトは、他の方法で実行することが極めて困難な開発作業を実行することを可能にしました。経験豊富な開発者を雇い、この特定の作業(ハミルトニアン構築と対角化の並列化)を集中的に行うための資金と仕組みを提供され、この作業は効果的かつ高水準で実行されました。」
「dCSEプロジェクトにより、英国のいくつかのグループ(UCLやOpen UniversityおよびQUB)が、以下のような近い将来の新しい科学研究を実行できることになりました。
・DNAと電子の衝突計算: 我々は、40以上の電子と10以上の核を含む生体関連分子からの電子散乱の計算を、十分な性能で実行することが出来るでしょう。
・分子クラスターと電子の衝突計算: 細胞中の生体物質からの電子散乱における媒質効果を検証するためには、小さな分子クラスターとの衝突に関する実験と理論研究が必要になります。その時またdCSEで、例えばDNA塩基と幾つかの水分子のようなクラスターに対してこの計算を実施するつもりです。
・陽電子-電子衝突: これらの計算においては、ターゲットの偏極状態の正確な描写が本質的です:私たちはこれを、計算中に十分な中間状態を含めることで実施するつもりです。媒質中では、高強度の短レーザーパルスに対する多原子分子の多電子応答を解析できるでしょう。
開発中のソフトウェアは、盛んに研究されているこの領域において世界最先端のものとなるでしょう。」
HECToR HECToR はResearch Councils を代行する EPSRC により管理されており、英国学術界の科学と工学をサポートする任務を負っています。エジンバラ大学にある Cray XT スーパーコンピュータはUoE HPCx 社によって管理されています。 CSE サポートサービスはNAG 社によって提供されており、高度なスーパーコンピュータの効率的な活用のために、ユーザは確実に適切なHPC専門家にコンタクトできます。CSEサポートサービスの重要な特徴は分散型CSE(dCSE)プログラムです。これは簡潔なピアレビューを経てユーザからの提案に応える、特定のコードのパフォーマンスとスケーラビリティに対処するプロジェクトです。dCSE プログラムは、伝統的なHPCユーザアプリケーションサポートとNAG によるトレーニングで補われる、約 50 の集中的プロジェクトから成り立っています。 これまでに完了した dCSE プロジェクトは、CSEの尽力により可能なコスト削減と新しい科学の優れた適用例をもたらしました。ここで報告されているUMRMol-inプロジェクトは成功を収めたパフォーマンス改善であり、新たなサクセスストーリーとなっています。 |
プロジェクトの背景
このプロジェクトの目的は、UKRMol-inの分散並列バージョンを実装することにより、より大規模なR行列計算(例えば、50万×50万以上)を可能にすることです。これは、UKRMol-inスイートの行列構築と対角化を行うSCATCIコード内で、高並列の行列構築と対角化を実装することにより可能です。
Open University物理科学学部のDr Jimena Gorfinkielがこのプロジェクトの調査主任です。Open University のMichael LysaghtとNAGのPaul Robertsは、NAG CSEチームと密接な連携を取りながら、12人月でプロジェクトを遂行しました。
プロジェクトの結果
UKRMol-in のスケーラブルな並列バージョンは、HECToRや他の大規模なHPCマシンでの利用のために開発されました。並列コードの負荷バランスと性能向上が実現され、HECToR上の数ノードに対するスケーラビリティを達成し、UKRMol-in による、より大きな問題サイズの研究を可能にしました。このコードは、HECToRでのUKRMol-inユーザに対して利用可能となり、より広範囲の科学者コミュニティーへの寄与を目的として、CCPForgeにおいて公開されました。
詳細なテクニカルレポートは以下で参照いただけます。
http://www.hector.ac.uk/cse/distributedcse/reports/
さらに詳しくお知りになりたい場合は、日本NAG株式会社 コンサルティンググループご相談窓口 https://www.nag-j.co.jp/nagconsul/toiawase.htm (あるいはメール:consul@nag-j.co.jp)までお問い合わせください。