対象プログラム | 流体/MD連成シミュレーション |
アプリケーション名 | Transflow/StreamMD |
チューニング方法 | アプリケーション連成モジュールの開発 |
成果 | 90%以上の並列効率を達成 |
HECToR dCSE Teamによるスケーラブルな連続体と分子動力学の連成コードの開発
Tamer Zaki, Edward Smith and David Trevelyan, Imperial College London (ICL)
Lucian Anton, Numerical Algorithms Group Ltd (NAG)
HECToR CSE Team, Numerical Algorithms Group Ltd (NAG)
英国の国立学術スーパーコンピューティング設備であるHECToR 向けの計算科学技術(CSE)サポートサービス業務を行うICLとNAGのHPC専門家は,独立した分子動力学と連続体アプリケーションを連成させて,HECToR上で高いスケーラビリティを示すマルチフィジクスシミュレーションを可能にしました。
開発したCMCe(Continuum-to-Molecular Coupling and Embedding)モジュールは,HECToR上で幅広い物理スケールに渡る流体問題を解くための、独立したコードです。特に,直接数値シミュレーション(DNS)であるTransflowと分子動力学(MD)コードであるStreamMDに対して,3百万分子のレナードジョーンズ系に関してHECToRの1,000コアを用いて高いスケーラビリティを実現させました。
dCSE の成功に言及して,ICLのTamer Zaki博士は次のように述べています:「このサポートのアイデアはユニークで,、HPCを利用する様々な研究に対して本質的なものです。dCSEサポートは,異なる背景を持つ研究者とNAGからの数値計算技術者との連携に絶好の機会を提供し,ソフトウェアの設計と最適化の重要性が詳らかにされ,他の資金では不可能であるかもしれない新しいソフトウェア開発分野が可能でした。」
「特にこのプロジェクトでは,これらの観点から多くの利得を得ることが出来ました。我々の目的は,これまで開発してきた既存の2つのアルゴリズムを連成させて数千コアまでスケールアップさせることでしたが、問題はこれらが全く異なる物理スケールを持つことでした。NAGの開発者と協力して問題を一つに絞ることが出来ました。それは,この開発が特定のアプリケーションがロバストであるだけでなく、HECToRユーザとマルチフィジクス研究者のより幅広いコミュニティに価値がある様に一般性を持たせることでした。ロバストなソフトウェア開発や,自動チェック機能,バージョン管理およびドキュメンテーションなどの観点でも,NAGのソフトウェア技術者との交流は有意義でした。初期フェーズの最後において,NAGから我々のグループへの第2フェーズ成功の保証を確信出来る十分な知識移転が行われました。」
「このプロジェクトで我々が開発した連成器/カプラは新しい科学を可能にします。我々は今や,精密な分子動力学シミュレーションを用いたミクロスケールの如何なる界面現象のシミュレーションも可能になり、同時に連続体ソルバーを用いたそのマクロスケールへの影響も評価可能です。我々はこのテクニックを,壁面滑りや,表面組織と被覆,エキゾチックで複雑な液体の構成的モデリングの研究に適用しています。また,トライボロジーアプリケーションでの表面効果に関心を持つ他のグループや,化学工学の移動接触線問題に関心を持つ研究者と共同研究を行っています。
さらに,様々なスケールや分野での物理現象の正確な表現を必要とする他のアプリケーションとの連成に対して,より幅広い研究やHECToRコミュニティで利用されることを期待しています。」
HECToR HECToR はResearch Councils を代行する EPSRC により管理されており、英国学術界の科学と工学をサポートする任務を負っています。エジンバラ大学にある Cray XT スーパーコンピュータはUoE HPCx 社によって管理されています。 CSE サポートサービスはNAG 社によって提供されており、高度なスーパーコンピュータの効率的な活用のために、ユーザは確実に適切なHPC専門家にコンタクトできます。CSEサポートサービスの重要な特徴は分散型CSE(dCSE)プログラムです。これは簡潔なピアレビューを経てユーザからの提案に応える、特定のコードのパフォーマンスとスケーラビリティに対処するプロジェクトです。dCSE プログラムは、伝統的なHPCユーザアプリケーションサポートとNAG によるトレーニングで補われる、約 50 の集中的プロジェクトから成り立っています。 これまでに完了した dCSE プロジェクトは、CSEの尽力により可能なコスト削減と新しい科学の優れた適用例をもたらしました。ここで報告されているCMCeプロジェクトは成功を収めたパフォーマンス改善であり、新たなサクセスストーリーとなっています。 |
プロジェクトの背景
このプロジェクトの目的は,DNSとMDの連成シミュレーションに対して大規模で並列かつ高度にスケーラブルなシミュレーションを可能にすることでした。これは,流体の大規模で巨視的な特徴と流れ境界付近の原子レベルの挙動との間のインターフェースプロトコルとして機能するCMCeモジュールを開発することによって達成されます。
ICL機械工学のTamer Zaki博士がプロジェクトの主任研究員でした。NAGのLucian AntonとICLのEdward Smith博士とDavid Trevelyan博士は,NAG CSEチームと緊密に協力して12人月のプロジェクトを遂行しました。
プロジェクトの結果
新たに開発されたCMCeモジュールは,DNS(Transflow)およびMD(StreamMD)アプリケーションをMPMD(Multiple Program Multiple Data)モードで実行できます。シミュレーションの間,TransflowおよびStreamMDからCMCeモジュールを呼び出すことでデータ交換が実行されます。これは,個々のクライアントアプリケーション(TransflowおよびStreamMD)の全てのスケーラビリティ特性の保持を保証します。さらにこれは,任意の数のMDインスタンスをDNS(連続体)ソルバーとインターフェイスさせる「MDファーミング」を容易にします。
最終的に,MPIタスク当たり106グリッドの場合のTransflowの弱スケール性の効率は90%,3.3x106分子のStreamMDの効率は94%に達しました。CMCeモジュールを用いた,HECToRフェーズ3上の数千コアによる数百万オーダーのグリッドと分子数によるCFD/MD連成シミュレーションの全スケーラビリティは極めて良好です。
現在,より広範な研究コミュニティでのマルチフィジクスシミュレーションに役立てるために,オンラインでCMCe連成ライブラリをホストする計画が進行中です。
詳細なテクニカルレポートは以下で参照いただけます。
http://www.hector.ac.uk/cse/distributedcse/reports/transflow01/
さらに詳しくお知りになりたい場合は、日本NAG株式会社 コンサルティンググループご相談窓口 https://www.nag-j.co.jp/nagconsul/toiawase.htm (あるいはメール:consul@nag-j.co.jp)までお問い合わせください。