プログラムの高速化・並列化サービスの事例

HECToRプロジェクト HELIUMのパフォーマンスと機能の向上

対象プログラム 電子散乱シミュレーション
アプリケーション名 HELIUM
チューニング方法 交差レーザー場計算機能と多電子系対応の実装とOpenMP/MPIハイブリッド並列化、座標変換コード開発、配位空間から運動量空間への変換コード開発
成果 8千コアまでスケールした。
[2015年11月掲載]

HECToR dCSE TeaによるHELIUMコードのパフォーマンスと機能の向上

 Kenneth Taylor, Jonathan Parker, Michael Lysaght, Laura Moore, Queen's University Belfast (QUB)
Edward Smyth, Numerical Algorithms Group Ltd (NAG)
HECToR CSE Team, Numerical Algorithms Group Ltd (NAG)


英国の国立学術スーパーコンピューティング設備であるHECToR 向けのNAGの計算科学技術(CSE)サポートサービスと共に、QUBとNAGのHPC専門家は、HELIUMコードの性能改善と機能拡張を行いました。これらの改善は、応用上の基礎となる物理科学における新しい領域研究を可能にします。

この機能拡張はレーザー・原子相互作用の研究能力を改善します。コードは今、この性能改善によって以前より効率的に動作しています。

dCSE プロジェクトの成功について,QUBの応用数理・理論物理学部のKenneth Taylor教授は次のように述べています。「dCSEサポートは、複数の極めて大きく複雑なHPC並列プログラムの開発成功に重要な役割を果たしました。この各プロジェクトでは、科学的な専門性と並列処理ソフトウェアの開発経験両方を持つ専門家により、数人月から1人年掛かると予想されました。その各ケースにおいて、我々の知る限りいかなる場所でも成し得なかった計算を可能にしました。交差偏光と円偏光レーザーに対するHELIUMの汎用バージョンが、dCSEサポートにより開発・テストされました。その結果我々は、完全に一般的(本質的には6次元空間とパルス時間積分)なヘリウム-レーザー相互作用のシュレディンガー方程式を統合する機能を得ることが出来ました。この機能は世界の中でもユニークなものです。このコードは、原子・レーザー物理での還元次元モデルにおける不整合の研究に用いられてきました。この高次元コードの恩恵を受けるにはHECToRの後継機による高い性能が必要です。このdCSEプロジェクトにおいて特に成功と言えるのは、二重励起のエネルギースペクトル計算を実行するポスト処理コードです。これは最近数年来議論されている、ある実験の高信頼性解析を得るために利用されてきました。dCSEサポートとHECToRの性能は共に、この研究の成功に不可欠です。」

HECToR
HECToR はResearch Councils を代行する EPSRC により管理されており、英国学術界の科学と工学をサポートする任務を負っています。エジンバラ大学にある Cray XT スーパーコンピュータはUoE HPCx 社によって管理されています。 CSE サポートサービスはNAG 社によって提供されており、高度なスーパーコンピュータの効率的な活用のために、ユーザは確実に適切なHPC専門家にコンタクトできます。CSEサポートサービスの重要な特徴は分散型CSE(dCSE)プログラムです。これは簡潔なピアレビューを経てユーザからの提案に応える、特定のコードのパフォーマンスとスケーラビリティに対処するプロジェクトです。dCSE プログラムは、伝統的なHPCユーザアプリケーションサポートとNAG によるトレーニングで補われる、約 50 の集中的プロジェクトから成り立っています。

これまでに完了した dCSE プロジェクトは、CSEの尽力により可能なコスト削減と新しい科学の優れた適用例をもたらしました。ここで報告されているHELIUMプロジェクトは成功を収めたパフォーマンス改善であり、新たなサクセスストーリーとなっています。

プロジェクトの背景

HELIUMプログラムは、高強度レーザー中の二電子の原子あるいはイオンに対する非相対論的時間依存シュレディンガー方程式を解きます。その応用には、アト秒時間スケールの電子の振る舞いの研究、自由電子レーザーによるXUV輻射との高強度場相互作用の研究、およびTi:sapphire波長のレーザー中の原子の振る舞いに関する研究などが有ります。こうした現象は全て実験でも研究されており、HELIUMによる研究と相補的な役割を果たし、この両者の協力で、量子コンピューティングや量子暗号といった重要領域の探索が進められています。

このプロジェクトの目的は、(HECToRのような)メニーコアアーキテクチャ上でHELIUMの性能改善と、交差偏光レーザー場との相互作用計算の追加、および二電子を超えた電子数の系の計算、といった機能拡張です。QUBの応用数理・理論物理学部のKenneth Taylorが主任調査員でした。QUBのJonathan Parker, Michael Lysaght, Laura MooreとNAGのEdward Smythは、NAGのCSEチームと協力して44人月でプロジェクトを遂行しました。

プロジェクトの結果


図:HELIUMの(253コアの性能から外挿された)予想された相対スピードアップは実際のスピードアップの1/4ほどである。

交差偏光レーザー場の計算を可能にした新しいコードは、HECToR上でスーパーリニア性を示しました。これは配列が膨大なコア数へ分散されて、高速なキャッシュに収まるためです(例えば256コアのような小さなコア数では、配列はキャッシュから低速なメモリーへ溢れます)。多電子系への拡張は、電子散乱でR行列法と呼ばれる手法を用いた新たなルーチン開発により達成されました。この拡張は、多電子が関与するレーザー・原子相互作用で生じる物理現象の予測に対してインパクトを与えることが期待されています。

OpenMP/MPIハイブリッド並列を含む他の改善としては、計算結果を球面座標から円筒座標へ変換する並列ポスト処理コードの開発が有ります。ここでは、最終状態の波動関数を配位空間から運動量空間へ変換するのに新しい手法を実装しました。この拡張により、与えられた問題サイズにおいてより多くのコア数にスケールし、コア当たりのメモリー効率が改善しました。例えば、新しい運動量空間手法は、以前のバージョンで用いられていた手法と比べて(HECToRの8,001プロセッサ使用時に)12倍高速化しました。


詳細なテクニカルレポートは以下で参照いただけます。
http://www.hector.ac.uk/cse/distributedcse/reports/

HELIUMの情報は以下で参照いただけます。
http://web.am.qub.ac.uk/ctamop/

さらに詳しくお知りになりたい場合は、日本NAG株式会社 コンサルティンググループご相談窓口 https://www.nag-j.co.jp/nagconsul/toiawase.htm (あるいはメール:consul@nag-j.co.jp)までお問い合わせください。

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