プログラムの高速化・並列化サービスの事例

HECToRプロジェクト CASTEPの機能強化

対象プログラム 電子構造計算
アプリケーション名 CASTEP
チューニング方法 時間依存DFT機能の追加
成果 時間依存DFT機能を追加し、256コアまで良好なスケール性を示した。
[2016年6月掲載]

HECToR dCSE Team による物性科学コード(CASTEP)の機能強化

Keith Refson, Science and Technology Facilities Council (STFC)
Dominik Jochym, Science and Technology Facilities Council (STFC)
HECToR CSE Team, Numerical Algorithms Group Ltd (NAG)

英国の国立学術スーパーコンピューティング設備であるHECToR 向けのNAGの計算科学技術(CSE)サポートサービスのもとで業務を行うSTFCのHPC専門家は、CASTEPに科学的に価値の高い新たな機能を実装しました。

CASTEPは密度汎関数法をベースにした電子構造計算コードで、無機及び有機光起電材料、表面での触媒反応、光ディスプレイ用の発光ポリマー材料、およびフェムト秒レーザ化学などの領域で用いられます。CASTEPはHECToR上で最も頻繁に利用されているコードです。

このdCSEプロジェクトの成功に関してKeith Refson(主任調査員)は次のように述べています:"このプロジェクトでCASTEPに重要な新しい機能を組込み、TDDFTによる励起スペクトルの計算が可能になりました。我々はこれにより次年度以降に2つの利得があると考えています:一つはこの新たな機能による新しい科学研究を可能にしたこと、二つ目は、励起状態を扱うための将来の手法開発の基礎としての価値です。この結果のポスター発表が"Trieste Total Energy"電子状態コンファレンスへDominik Jochymにより投稿され、審査が通りました。"

HECToR
HECToR はResearch Councils を代行する EPSRC により管理されており、英国学術界の科学と工学をサポートする任務を負っています。エジンバラ大学にある Cray XT スーパーコンピュータはUoE HPCx 社によって管理されています。 CSE サポートサービスはNAG 社によって提供されており、高度なスーパーコンピュータの効率的な活用のために、ユーザは確実に適切なHPC専門家にコンタクトできます。CSEサポートサービスの重要な特徴は分散型CSE(dCSE)プログラムです。これは簡潔なピアレビューを経てユーザからの提案に応える、特定のコードのパフォーマンスとスケーラビリティに対処するプロジェクトです。dCSE プログラムは、伝統的なHPCユーザアプリケーションサポートとNAG によるトレーニングで補われる、約 50 の集中的プロジェクトから成り立っています。

これまでに完了した dCSE プロジェクトは、CSEの尽力により可能なコスト削減と新しい科学の優れた適用例をもたらしました。ここで報告されているCASTEPプロジェクトは成功を収めたパフォーマンス改善であり、新たなサクセスストーリーとなっています。

プロジェクトの背景

このプロジェクトの目標は、CASTEPへ時間依存密度汎関数法(TDDFT)を実装することでした。TDDFTは分子系の励起状態モデリングにおいてよく知られた手法であり、様々な量子化学コードに実装されてきました。本プロジェクトもまた、CASTEPに対する座標最適化と分子動力学における励起状態による力の計算の実装の途中段階を成すものです。CASTEPへのTDDFT実装は、英国の電子構造計算コミュニティに新たな科学領域への対処を可能にします。

特に、これは光学およびUVスペクトル実験を直接モデリングすることを可能にし、原子レベルにおける電子励起の基本的な特性の理解を助け、工学的に重要な材料の光学特性に対するより詳細な洞察を提供するでしょう。

STFCのKeith Refsonは主任調査員、Durham大学のStewart ClarkおよびSTFCのLeonardo Bernasconiが共同調査員でした。STFCのDominik JochymはNAG CSEチームとCASTEP開発者と共に、10.5人月でプロジェクトを遂行しました。HECToR上で2009年末から90百万AU(allocation units)(注)を費やしてCASTEPを実行しました。

プロジェクトの成果

CASTEPにTDDFTが実装されました。その並列ソルバーは既存の並列分散スキームと互換性を持ちます。強化されたコードは、Cray XT4の256コアまで良好な並列効率を示しました。このコードを用いた、Durham大学とOxford大学による雑誌投稿に向けた新規の研究が現在進められています。この開発は、CASTEPの標準とガイドラインに沿って注意深く進められ、メイン・リリースが期待されています。


(注)アロケーションユニット(allocation unit, AU)はHECToRにおけるノード課金単位です。大まかに言えばLinpackベンチマーク(Rmax)を基にした1時間当たり1Tflopsの実行量がkAUに相当します。例えば60Tflopsのプロセッサ群は60kAU/時間に相当します。

詳細なテクニカルレポートは以下で参照いただけます。
http://www.hector.ac.uk/cse/distributedcse/reports/

さらに詳しくお知りになりたい場合は、日本NAG株式会社 コンサルティンググループご相談窓口 https://www.nag-j.co.jp/nagconsul/toiawase.htm (あるいはメール:consul@nag-j.co.jp)までお問い合わせください。

関連情報
MENU
Privacy Policy  /  Trademarks